科学・数理(サイエンス)」カテゴリーアーカイブ

人間と地球上生物の大量絶滅

現在、地球史上6度目の生物大量絶滅期に入っているというアメリカの大学の研究グループの結果が出ている。今、通常の100倍のペースで種の絶滅が進んでいるそうだ。現在の絶滅期は6度目だということだが、過去の5回と決定的に違うことがある。それは現在の絶滅期が人間の手によるものだということである。過去の絶滅期は隕石の衝突や火山の爆発など天災的なものであった。しかし現在、人間は地球上の種の存続の運命まで握っている。

そしてもう一つ、われわれに直接的にかかわることがある。それは将来、その絶滅種の中に「人間」も入る可能性が非常に高いことだ。人間は人間まで絶滅させてしまうかもしれない。

僕の私観だが、もし人間の絶滅がおこるならばそれは一瞬、あるいは非常に短期間で絶滅するのではないかと思う。わかりやすい例では核兵器によるもの、急激な環境汚染、あるいは想定しえない要素も現在の社会には山ほどある。むしろ核兵器などは核削減など対策もわかりやすいが、想定しえないものに対しては対策もしえない。

現在の生物学では人間は哺乳類の一種とみなされている。しかし何十万年後、何百年後に知的生物が存在していれば、人間は既存の生物の一種とはみなされないだろう。おそらく知的新生物とでもいうような全く新しい系統の生物種とみなされるはずだ。

文明の発展は大天災でも起きない限り発展し続ける。しかし今、人間は無制限の発展に進むのではなく適切な発展を遂行していくことに注意を払わなければいけないのではないかとと思う。これから人間は人間とその文明をうまくコントロールしていかなければならない。

体内時計のずれ

早稲田大学の研究グループのマウスによる実験により、マウスにストレスを与えると体内時計が大きく狂うことがわかったみたいだ。特に就寝前のストレスに対しては顕著な結果が出たみたいだ。マウスによる実験で出た結果は、同じ哺乳類である人間でも類似の現象が言えることが予想される。

現代の社会がストレス社会と言われて久しい。多くのサラリーマンにとって、毎日決まった時間に起き、決まった時間に寝、しっかりした睡眠をとることは必須だ。しかし実際にそれを実行するのは意外に難しい。もちろん個体差はあるので、それが容易にできる人とできない人がいる。

僕の話になるが、僕は睡眠のリズムが全く取れない体質だ。睡眠障害というより睡眠リズム障害と言ったほうがいいかもしれない。短時間睡眠の翌日長時間爆睡してまた眠れない、また寝ないといけない時に眠れなくて、起きていなければならない時に寝てしまう。そのため周りからは人に合わせろと責められストレスもたまる。もしかしたらそのストレスも睡眠リズム障害の一因なのかもしれない。

睡眠の科学は非常に深く、現段階の睡眠に対する研究は表面的なものだ。今回のマウスの実験でも体内時計という言葉を使って説明しているが、そもそも体内時計というもの自体が現段階では怪しい存在だ。

簡単に推測できることだが、睡眠は脳の機能に大きく関わっていると思われる。しかし脳の研究が本格的に行われ始めたのは1990年代からだ。日本の理化学研究所の脳科学研究センターもそれくらいの時期にできたのではないか。

脳は生命科学に最後に残された広大なフロンティアだ。脳の科学についてまだわからないことは膨大にあると思われる。もしかしたら1%もわかっていないかもしれず、また最も根本的な機能のかけらも認識されていない可能性もある。

21世紀の生命科学である脳科学の進展を日本の研究者がたくましく開拓していく姿を見ていきたいものである。

巨大地震に対する科学的理解

30日午後8時過ぎ、太平洋の日本沖合で巨大地震が起きた。地震の大きさを表すマグニチュードは8.5で、普通なら超巨大地震になろうかというレベルだ。日本でも広い範囲で大きな揺れを感じたようだ。しかしこれだけの巨大地震が沖合で起きて、津波が起きなかったことには非常に不思議に感じた。

今回の巨大地震で津波が起きなかった理由は、震源の深さにあるらしい。今回の地震の深さは590kmだった。普段日本付近で起きる地震の震源の深さは数十キロというものが多かった記憶がある。わかりやすく言えば、地震は海水のある海から500キロ以上離れたところに起きたと言える。そう考えれば津波が起きなかったことも納得できるだろう。

地震研究は基本的に実験ができない。(最近は人工地震というものを起こして地殻を調べることができるそうだが。)すなわち一回一回の地震そのものが実験のサンプルみたいなものであって、一回の地震でどれだけデータをとれるか、どれだけ解析できるかが地震学者の腕の見せ所である。

今回の地震は深さ590キロという非常に特殊な巨大地震であり、サンプルとしても非常に貴重だ。地震研究というと防災に直結する研究が主流のように思えるが、今回の地震からは地球の内部構造など地球科学に大きなヒントを与えるような地震ではないかと僕は勝手に思っている。

社会では地震学者に防災に役立つ研究を100%望んでいるが、科学的意義のある研究に一般市民も理解を示し、興味を持たなければならないのではないかと思う。

今回の特殊な巨大地震からどのようなことが解明されるのか、科学的興味のあるところである。

iPS再生医療は着々と進む

iPS細胞が山中伸弥教授に発見されてから8年になろうかとする。以前は基礎研究が主流だったiPS研究も、今では着々と臨床応用研究に入ってきている。理化学研究所の高橋政代博士が眼の網膜のiPS細胞からの移植に成功したことは記憶に新しい。最近ではiPS細胞研究所の高橋淳教授が進めているパーキンソン病の臨床研究が注目を浴びている。この二人は実は夫婦でもある。

iPS細胞が発見された当時、その基礎科学的重要性は瞬時に世界に伝わったが、数年でここまで臨床に応用されるとは思わなかった。生命科学の門外漢の僕にとっては、iPS細胞の科学は非常に魅力的に映ったが、医学的展望に関してはほとんどと言っていいほど理解できなかった。こうして現実に臨床が行われるにつれ、重要性が伝わってくる。

この様に全く新しい基礎研究がこんなにも早く一般に応用される例も非常に珍しい。改めて山中教授の凄さに驚かされる。世界を見渡しても、基礎から応用まで幅広く研究し、しかもどれをとっても最重要な研究ばかりだという例は、今では世界を見渡しても山中教授くらいではないかと思う。

山中教授、そしてそのグループ、それらの日本の組織のさらなる躍進を願わずにはいられない。

ネパール大地震とヒマラヤ山脈

4月25日、ネパールで大地震が起きた。ネパールでは建物の作りが弱いこともあり、建物が崩れ少なくとも千人以上の犠牲者が出そうだ。それからネパールといえばヒマラヤ山脈への玄関口。ヒマラヤ山脈でも地震による雪崩が起き、犠牲者が出た模様だ。

ところで日本は地震の巣といわれているが、ネパール周辺も地質学的に大地震が起こりやすい構造になっている。その一番の象徴が世界で一番高いヒマラヤ山脈の存在である。

なぜヒマラヤ山脈が巨大地震の象徴か。ネパールの巨大地震とヒマラヤ山脈の高さは切っても切れない関係にある。ヨーロッパからロシア・中国にかけてはユーラシアプレートという巨大な一枚のプレートの上に乗っている。しかしネパールの南にあるインドはインドプレートという別のプレートの上にある。その境目にあるのがネパール、そしてヒマラヤ山脈なのである。

インドプレートの上にあるインドはもともとアフリカ大陸の東、マダガスカルのあたりにあった。それが長い年月をかけて移動し現在の位置までたどり着いた。しかしインドプレートの移動は今でも続いている。インドは今でも北上し続けているのである。その影響でインドプレートとユーラシアプレートの境目は上下から挟まれるように曲がって上昇している。それがヒマラヤ山脈なのである。つまりこの境目にあるネパールはいつ巨大地震が起きてもおかしくない状態なのである。

今回の地震によってさらにヒマラヤ山脈の高さが変わった可能性がある。もしかしたらエベレストは以前よりも高くなっているかもしれない。今後の正確な地質調査が待たれるところである。

猿橋賞が決定

猿橋賞というのがある。自然科学分野の女性研究者に毎年贈られる賞だ。今年の猿橋賞が、米ワシントン大の鳥居啓子教授(49)に送られることが決まった。専門は植物発生学という分野らしい。植物発生学と聞いてもいまいちピンとこないのだが、生命科学の研究者であることは予想がつく。

ところで僕は大学・大学院と数学物理関係の研究をしていたが、数学物理関係の女性研究者は本当に少なく、当時は女性研究者が少ないことは当たり前のことと感じていた。理系には女性研究者は少なく、だからこそたまにいる女性理系研究者・学生は「リケジョ」ともてはやされるのだが。理系の中でも数学物理は特に少ない。逆に生命関係の研究者には女性が多いように感じる。この様な女性理系研究者の少なさを解消するためにも、猿橋賞はできたのであろう。

海外の研究者でも日本ほどではなくても女性理系研究者は少ないが、重鎮とも呼ばれ女性研究者は昔から存在する。キュリー夫人は有名だが、数学・物理の双方で19世紀の終わりに活躍したエミー・ネーター女史なども数学物理をしている学生にはおなじみだ。

女性だからといって研究者の門戸を狭くしてはいけない。しかし女性だからといって優遇するのも間違っている。男女同じ目線で評価することが大事だ。それが男女平等につながってくる。

小保方ショックから女性研究者に対して多少評価が厳しくなったかもしれないが、多くの男性研究者を凌駕する大物女性研究者が現れるのを楽しみにしている。

科学と科学技術

日本では特に、科学(サイエンス)と技術(テクノロジー)をひとまとめにして「科学技術」と言われることが多い。技術は科学に基づいているとはいえ、科学と技術は区別しなければならない。

技術は社会への応用・人の役に立つものという色彩が強い。しかし科学(サイエンス)は純粋に自然への探求心に基づくものであって、本来は人に役立てるためにするものではない。結果論として人の役に立つことが往々にあるということである。

しかしこの科学と技術を科学技術とひとまとめにすることによって、科学(サイエンス)自身が役に立つものとみられ、役に立たない科学は価値がないと思われるようになる。

科学(サイエンス)をやっていると言うと、「何の役に立つのですか?」と聞かれることが多いが、僕ははっきり「役に立ちません」と答えることにしている。うやむやにごまかして役に立つこともあるなんていうことはいわない。

しかしこの役に立たない科学は、長い目で見ると大きく役に立つことが多い。ただ現時点では何に役に立つのかわからないだけなのである。何かに役に立つように研究されていものより、むしろ何に役に立つかわからない基礎研究の方が後々大きく役に立つことが多いのである。

科学の価値を判断するときに、役に立つかという論点は一つの目安かもしれないが、純粋に科学的価値を判断することも忘れてはならない。

メダカでパーキンソン病を再現

京都大学の研究グループが、メダカを使ってパーキンソン病を再現することに成功したそうだ。

パーキンソン病は脳の伝達物質が減少し、筋肉の震えなどの症状が出る難病だ。これまでに治療方法は見つかっていない。

今回京都大学のグループは、メダカの遺伝子のうちの一つを抑制させることによってメダカにパーキンソン病の症状を出すことに成功した。遺伝子を操作して特定の症状を出すのは、iPS細胞の作製に通じるものがあるのではないかと私は思ってしまう。iPS細胞は、通常の細胞(例えば皮膚の細胞)に山中ファクターと呼ばれる四つの遺伝子を入れることによって万能細胞に変化させる。

21世紀の生物学・医学の研究の中心は「脳」の解明だと言われていた。1987年にノーベル医学生理学賞を受賞された利根川進博士も免疫の研究でノーベル賞を受賞し、脳の研究に移った。

1990年代のヒトゲノム解析計画から遺伝子の研究が躍進し、山中博士のiPS細胞の発見で一つの絶頂を迎えたのではないかと思う。iPS細胞の万能性によってiPS細胞をさまざまな病的な細胞に変化させ、それを(実験台として)利用し、創薬のペースが飛躍的に早くなることが予想されている。

今回のパーキンソン病のメダカの作成成功は、この病的なメダカを実験台にし、薬の有効性、治療方法の確立など、様々な期待を背負うだろう。

生物学・医学は単に科学の発展のみならず、病気の治療など人類への貢献度が非常に大きいものが多く、一つ一つの研究が持つ社会的意味合いも大きい。それはiPS細胞の医療への貢献が年々急拡大していることからも容易に感じられる。

今回のパーキンソン病のメダカの研究も、将来医療に大きく貢献させる、そんな予感を感じるものである。

野依理研理事長交代

理研のトップが野依良治氏から松本前京大総長に交代した。野依氏にとっては苦悩の理事職だったに違いない。STAP細胞不祥事時の理事長と記憶に残るだろう。今ではSTAP責任問題で揺れた野依体制であったが、野依氏が偉大な化学者だったことを忘れてはないだろうか。

野依氏は言わずと知れたノーベル賞化学者である。名古屋大学教授時代の2001年にノーベル化学賞を受賞されている。受賞時には大きく取りざたされて持ち上げられたものだが、それもこんなに手のひらを返されるような扱いをされるものかと悲しい気がした。

ノーベル賞受賞時は「鬼の野依」と呼ばれて、研究姿勢の厳しさが注目浴びた。それをあざ笑うかのような小保方氏の研究姿勢の甘さである。野依氏は理研中枢におり、小保方氏を直接指導することはなかったと思われるが、小保方氏にこの野依氏の厳しさが伝わっていればここまで大きな問題になっていなかったのではないかと悔やまれる。

野依氏はノーベル賞受賞以降、研究機関管理職として多忙を極めたと予測されるが、偉くなったからと管理職に登用するのはどうかと思う。野依氏のような超一流の化学者を最後まで第一線で現役として研究に打ち込める環境を与えるのも周りの役目ではないか。

なにはともあれ、野依さん、お疲れ様でした。これからまた研究生活に戻ってくれればと思っています。

スキージャンプと数学

先ほどスキージャンプの試合をテレビ中継していた。スキージャンプの飛距離を左右するのが風の抵抗だ。風邪は一刻一刻と変わっていくので、風邪を読むのは非常に難しい。

ところで、風などの流体は数学的には「ナビエ・ストークスの方程式」という方程式で記述される。偏微分方程式と言われるものの一つだ。しかしこの方程式は非常に複雑で、まだ数学的に厳密な解は求まっていない。何十年か何百年か知らないが、非常に長い間未解決問題をして残されている。偏微分方程式を研究している解析学者の多くは、ナビエ・ストークス方程式の解を導くことを夢見ている。

流体が問題になるものの一つに、飛行機の空気抵抗がある。現在このような流体による抵抗を計算するときには、シミュレーションするか近似的な解を求めることになる。しかしナビエ・ストークス方程式の厳密解が求まれば、飛行機の設計にも大きな影響を与えるとも言われている。スキーのジャンプの理想的な飛び方なども見つかるかもしれない。

ちなみにナビエ・ストークス方程式を解くと、クレイ数学研究所から約1億円が懸賞金として送られる。

そうそう、スキージャンプの話をしているのだった。団体戦、最後はレジェンド葛西選手が締めくくって日本は4位だった。葛西選手の飛型は非常に美しいので、見ていてすごく気持ちいいものである。