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量子テレポーテーションの実験に、NTT物性科学基礎研究所のグループが成功

今年の9月に、アメリカの研究所と日本のNTT物性科学基礎研究所のグループが、約100kmの量子テレポーテーションの実験に成功したらしい。

量子テレポーテーションとは、二つの離れた位置にある素粒子間の間で情報を瞬時に伝送する技術だ。この実験の鍵となるのが「量子もつれ(エンタングルメント)」といわれる現象だ。単に二つのどんな粒子間でも情報が伝送できるかといえば、それは無理だ。この二つの素粒子がエンタングルメント状態、すなわちもつれ合っていなければテレポーテーションはできない。今回の実験では100km離れた位置にある、お互いエンタングルメントされた二つの素粒子間で情報の伝達に成功したということだ。

ところで21世紀に入ってから、このエンタングルメント理論はブームともいえる発展を遂げている。これらの興味はもともと量子情報理論から発するものであるが、最近はあらゆる物理理論で応用がなされている。

その代表的な例が、Ryu(笠)-Takayanagi(高柳)理論とも呼ばれる、「ホログラフィックなエンタングルメント-エントロピー理論」だ。この理論は京都大学基礎物理学研究所の高柳匡教授が2006年に提唱された、日本発の理論だ。最近は素粒子論関係の研究で、この理論が盛隆を極めている。原論文はネット上で公開されており(英文)、僕も原論文を読まさしていただいた。この理論の特徴は、あらゆる理論のエッセンスが含まれていることだ。弦理論のAdS-CFT対応理論・重力理論・極小曲面理論、そしてエンタングルメント理論だ。

素粒子論・弦理論関係は、日本が非常に強い分野だ。2008年の南部・小林・益川の三氏がノーベル賞を受賞したのが記憶に新しい。それらの系譜に量子情報理論のエンタングルメント理論が合流した形だ。高柳理論がこれから先、ますます発展していくのか、頭打ちになるのか、予想できないが、カリフォルニア工科大学の大栗教授たちのグループがこの笠-高柳理論を利用して重要な結果を導いたとの情報もあり、これからこれらの分野から目を離せない。

iPS細胞の山中伸弥の目指すところは

MBSオンデマンドで、テレビ番組「情熱大陸」の山中伸弥iPS細胞研究所所長の特集を観た。ここ15年程、日本人研究者のノーベル賞受賞が続いているが、山中伸弥先生の存在感はその中でもまた別格の雰囲気を感じる。それはなぜか?その一つの答えが情熱大陸の中で見て取れたような気がする。

多くの研究者にとってノーベル賞は研究人生の頂点に違いない。しかし山中先生は違う。ノーベル賞は研究の通過点であり、これからのiPS細胞研究・医療においてノーベル賞受賞という肩書をいい意味でツールとして上手く使いこなしている。そういう意味で山中先生のノーベル賞の価値は、他のノーベル賞研究者のものよりも何倍も価値があるのではないかと感じる。

山中先生は今は研究者としてより、研究経営者としての役割を重要視している。彼の発見したiPS細胞研究をこれから発展させるには彼一人の仕事では大きく成し遂げられないことを山中先生は自覚している。そのため「研究経営」に徹して、より多くの研究者の力を利用してiPS細胞研究を大きく進めようとしているのである。

そして日本で生まれたiPS細胞の研究を、日本の技術として、メイドインジャパンとして大きく発展させたいという思いが山中先生にはある。

以前、山中先生は、iPS細胞研究において日本は1勝9敗だと言われていた。その1勝とは彼がiPS細胞を発見したこと。それからの発展においては全敗だということだ。

現在、iPS細胞の研究は国を挙げてオールジャパン体制で行われている。民間からの寄付も集まりつつあるという。そしてもうすぐ第三の研究棟が完成するという。日本発の発明で日本の技術として、これからのiPS細胞研究・技術が大きく発展することを願うばかりである。

欧米を追いかける研究と、追いかけない研究のバランス

ノーベル賞、化学賞も日本人、とはいかなかったが、連日の医学・生理学賞と物理学賞の受賞に日本がわいた。

ところで今回のお二方の研究は、研究結果の重要性はもとより、日本独自のオリジナリティが大きな評価の対象になったのではないかと感じた。物理学賞の梶田氏の研究は、岐阜県神岡鉱山跡にある「スーパーカミオカンデ」という実験施設が舞台になった。世界の物理界では巨大な加速器の建設競争が過熱し、加速器物理こそ欧米の研究の中心の一つともいえる。ところがスーパーカミオカンデは、地下に大量の純水を貯め、宇宙線粒子と反応した水が発生した微弱な光を検出するという非常に地味な実験施設だ。この様な施設は日本以外では(少なくとも僕は)聞いたことがなく、おそらくあまりにも地味すぎて外国では興味を持つ人がいなくて作られなかったのではないかと思われる。それに対して加速器物理は素粒子物理の華である。

とはいえこの地味に思えるスーパーカミオカンデは最先端の科学技術も取り入れられている。巨大な光電子倍増菅だ。純水貯蔵施設の壁にぎっしりと取り付けられている。この巨大光電子倍増菅は静岡にある浜松ホトニクスという企業の専売特許である。2002年の小柴氏の受賞時にも話題になった。

このカミオカンデのように外国が注目しない実験施設を作り、日本独自の研究を行ったことがオリジナリティの高さにつながり受賞に結び付いたのだろう。まさしく欧米を追いかけない研究の典型だ。

欧米中心の研究に取り組むことが悪いのではない。ただしそのような研究に取り組むならば後追いではなく先駆者にならなければ、単なるハイエナと呼ばれることになる。

連日のノーベル賞受賞、梶田隆章氏。昨日の大村氏とは思想の違う研究で。

前日の大村智氏のノーベル医学・生理学賞受賞に続き、10月6日、梶田隆章東京大学宇宙線研究所所長がノーベル物理学賞を受賞された。前日の大村氏に続き、梶田氏にも一国民としておめでとうという気持ちを送りたい。

ところで前日の僕のブログで、医学・生理学賞の大村氏の研究思想に対して、科学研究には大村氏とは異なった思想・視点も大事だと述べた。そして今日の梶田氏の物理学賞の受賞、そこで梶田氏は前日僕が述べたことをそのまま表現してくれた。現在の僕がいくら主張しても全然影響力はないが、ノーベル賞を受賞された梶田氏が発言すると非常に説得力があるだろう。

具体的には、科学は役に立つものだけではなく、役に立たないもの、実学ではないものに真の科学的価値があるということだ。そしてまさしく梶田氏の研究がそれにあたる。梶田氏の研究は、宇宙線の研究によりニュートリノ振動という現象を観測され、ニュートリノに質量が発見されたというものだ。分野としては素粒子物理学にあたるが、2008年の南部・小林・益川氏らの「素粒子論」に対し、今回の梶田氏は2002年の小柴氏の流れをくむ「素粒子実験」である。

今回の梶田氏の受賞に際しての発言は、僕自身も非常にうれしいものであった。梶田氏は

「すぐに役に立つ研究ではなく、知の地平線を広げるような研究だ」

ということを話されていた。僕が前日のブログで述べたことはまさしくこのことである。梶田氏の発言によって少しでもそのような科学思想の重要性が国民に浸透すれば非常にうれしい。

二日続けてのノーベル賞日本人受賞、気は早いが次の化学賞で「三日続けて」となるかどうかが楽しみである。そして文学賞では村上春樹氏が有力候補とされている。この時期は日本人にとって恒例の楽しみな季節となりつつある。

大村智氏、ノーベル賞受賞。大村氏の信念は素晴らしいが、科学には別の視点も必要だ

10月5日、ノーベル医学・生理学賞が発表され、北里大学の大村智特別栄誉教授が受賞された。何はともあれ、一国民としておめでとうという気持ちを送りたい。

大村氏の科学に対する信念は非常に素晴らしい。大村氏は、科学は人の役に立てなければいけない、実学でなければいけないということを非常に強調されていた。それはそれでもっともかもしれない。しかし変人である僕はその信念に反発を感じるのである。

僕は数理物理と言う分野を研究してきたが、なぜ数理物理を選んだのか?それは一番は興味があり面白さを感じたからであることは言うまでもないが、それとは別に「役に立たないから、そして実学からはほど遠いから」だ。しかしこのような思想はほとんどの人に理解されない。役に立つ素晴らしさを理解するのは簡単だが、役に立たないものの素晴らしさは説明をしないと理解してもらえない。説明をしても理解されないかもしれない。

400年ほど前のニュートンの時代、当時、万有引力の法則が役に立つなどと理解した人はどれだけいるであろうか。20世紀の初めの量子論、そして相対性理論が人の助けになると想像した人がどれだけいるだろうか。おそらく全くと言っていいほどいないだろう。しかし万有引力の法則も、量子論も、相対論も科学史に輝く金字塔だ。なぜ役に立たない(と当時思われていた)これらの理論がそんなにも偉大なのか?それは役に立たないからである。もう少し詳しく言えば、役に立たないのに取り組むべき価値のあるほど重要な理論なのである。分野にもよるだろうが、数学や物理では役に立てるために発明したものよりも、役に立つかどうかということを度外視して打ち立てた理論の方が圧倒的に重要なことが多い。

とはいえ、当時役立てることからはほど遠かった量子論は、現在の科学技術、人々の周りで最も中心的な役割を担っている。現在最も役立っている理論は量子論だといっても過言ではない。相対論も現在ではカーナビなどの技術に取り入れられている。

役立てるための短期的な科学技術ももちろん大事だが、役立つかどうかなどを度外視して真に重要な理論を研究している科学者たちに対しても、周りの人は見守ってほしいものである。それが結果的に科学立国として大国になるために必要な資質である。

津波の原因は地震だけではなかった。想定外災害時代に突入した日本

10月4日(日)、NHKで「巨大災害」という番組を観た。いま注目されている災害の一つに、「カルデラ噴火」がある。カルデラ噴火は普通の噴火とは規模も質も全く違い、桁違いの巨大災害をもたらす。鹿児島の桜島では、普通の噴火は桜島の火口から噴火するが、カルデラ噴火では桜島が浮かんでいる鹿児島湾全体が噴火口となる。

カルデラ噴火は鹿児島湾だけでない。阿蘇山などをはじめ、北海道から鹿児島まで日本にはカルデラが多数存在する。日本でカルデラ噴火が起きる頻度は平均すると6500年に一度だそうだ。

そしてこのブログのタイトルでもある津波についてだが、津波は地震の専売特許ではないという。驚くことに火山の噴火でも津波は起こることがわかっている。厳密に言うと、海底噴火が原因の津波である。鹿児島湾では地上にある桜島だけではなく、鹿児島湾内の海底でも噴火が起きるという。そうなれば鹿児島湾沿岸では10メートルにもなる巨大津波が襲ってくる。

日本に住んでいる限り、巨大自然災害からは縁が切れないといっても過言ではない。そして東日本大震災から学んだこと、「想定外」はもう許されない。想定外はいつ起こってもおかしくないのである。従来ならカルデラ噴火などは想定外だったかもしれない。海底噴火による津波が起これば想定外と言われたかもしれない。しかし想定外が当たり前になった現在、もう想定外は存在しない。

日本人には自然災害に対してもう想定外と口にすることはできなくなってしまった。頭の片隅に、そのような想定しえないことが起きる可能性というものについて気を留めておく必要がある。

侮ってはいけないチリ地震津波

17日早朝、チリ沿岸でマグニチュード8.3の大地震が起こり、18日早朝、日本でも津波が観測された。チリと言えば日本から地球の裏側にあると言っていいほど遠く離れているが、なぜこのような離れたところの地震による津波が日本まで来るのだろうと疑問に思う人が多くいるかもしれない。さらに太平洋のど真ん中にあるハワイはもっと大きな津波が来るのではと思うかもしれない。しかし実際はハワイでの津波の高さは日本の半分ほどである。それはなぜか。

ポイントはチリが日本の裏側にあるということだ。チリで起きた津波はそこをを中心にして四方八方に散っていく。しかし地球儀を思い出すとわかるように、地球の裏側から四方に直線をのばしてほしい。一度は遠く離れるが、地球の裏側でこの四本の直線は出会うことになることがわかる。チリ地震津波も同じだ、チリからいったん離れた津波は地球の裏側の日本でまた合わさって再び高くなるのである。

約半世紀ほど前に起きたチリ地震(これはマグニチュード9.5という巨大なものであった)の時は、日本にも6メートルもの津波をもたらし、日本の太平洋沿岸に大きな被害をもたらした。この時もハワイでの高さは約半分である。

この様に地球の裏側での地震は決して侮ってはいけない。地球の裏側だから危険なのである。今回の津波は大きくはなかったが、日本は常に津波の危険性をはらんでいることを忘れてはいけない。

レクサスの浮上するスケボー

最近レクサスのCMで登場している、空飛ぶ スケボーをご存じだろうか?この空飛ぶスケボー、コンピューターグラフィック(CG)などではなく、本当に宙に浮いているのだ。正式な名前は「ホバークラフト」と言うらしいが、液体窒素で超伝導体を作り、磁気浮上技術で地面を、あるいは海面上を滑るように動いている。リニアモーターカーに近い仕組みとでも言えばいいだろうか。

物理をやっている僕も超伝導体(物性分野)には今一つ詳しくないので、原理を理論的に厳密に理解することはできないが、この未来のにおいがプンプンする乗り物にはかなり興味をそそられる。これはレクサスの研究チームが開発したもので、さすが日本一の巨大企業の技術力だと感心させられる。

このホバークラフトは本来の事業とは全くと言っていいほど関係なく、このようなことに取り組める技術的・金銭的な余裕は、日本の産業・技術のさらなる発展を促すことになるだろう。将来の革新的ブレークスルーはこのような研究から生まれてくるものだ。

トヨタは世界に先駆けて燃料電池自動車の実用化にも成功した。本来の事業の発展にも抜かりがない。もちろん全ての企業がこのホバークラフトのような未来的研究に取り組めるわけではないが、いま日本の景気が上向きになる中、このような企業が少しでも増えると、日本の産業、そして技術科学界も非常に面白い、エキサイティングな世界になるであろう。

桜島、大規模噴火の予兆か

桜島の活動がかなり活発になり、大規模噴火が起きる可能性が高いと発表された。予兆とは火山性地震・山体膨張などである。桜島は普段から年に千回以上のペースで火山活動が起きているが、今回の火山活動は気象庁の観測開始以来最大のものであるらしい。余談だが、僕が鹿児島に行ったとき、路面電車の中には火山灰を避けるために貸し出す傘が数本車内に準備されていた。鹿児島市民にとっては火山活動は生活の一部なのであろう。

ところで日本にはカルデラと呼ばれる巨大な火口がいくつもある。その中でも特に有名なのが阿蘇カルデラであるが、実は鹿児島の桜島も阿蘇に匹敵するくらいのカルデラなのである。桜島の頂上にある火口のことではない。桜島の浮かぶ鹿児島の湾の内部全てが実は姶良カルデラと呼ばれる巨大カルデラなのである。桜島は姶良カルデラの中に浮かぶ小さな山に過ぎない。今回の桜島の噴火は桜島の火口からの噴火と思われるが、数万年に一度くらいの割合でカルデラ全体からの噴火が起きることがある。いわゆる超巨大カルデラ噴火である。それは富士山の噴火の比ではないくらい巨大なものだ。超巨大カルデラ噴火が起きれば、九州はほぼ全滅すると言われている。

ともあれ、桜島の活動が人的被害のないレベルであることを祈るが、日本は火山・地震とも世界でもまれにみる地学的災害大国であり、常にその予兆を監視することを怠ることができない。

巨星散る・南部陽一郎博士

ノーベル賞物理学者、南部陽一郎氏が死去したことが明らかになった。94歳だった。

南部氏に関する俗的な話題はもちろんノーベル物理学賞を受賞したことに尽きるが、そのことを表現するときに「日本人物理学者」と表現すべきかどうかが議論になる。南部氏は東大卒業後、大阪市立大学で職に就いた後アメリカに渡り、そのままアメリカを研究拠点とし、アメリカ国籍を取得している。すなわち国籍上はアメリカ人なのである。日本生まれのアメリカ人と言う方が正確である。このことについては日本としては名誉なことではない。何しろ超一流物理学者が日米の研究環境を比較してアメリカを選択し、日本を捨てたわけであるから。異能流出である。

南部氏の物理学的な業績は多岐にわたり、広く深いものである。南部氏を表現するときによく使われるのが「時代を先取りしすぎた」という言葉だ。南部氏の研究は数十年後のスタンダードになっている。

僕が物理の勉強において初めて南部博士の名前に触れたのは、場の量子論の「南部・ヨナ-ラシーニョ模型」だ。南部氏の業績は、博士の代名詞ともいえる「自発的対称性の破れ」や「南部-ゴールドストン定理」をはじめ、どれをとっても重要なものばかりだ。最近流行りの超弦理論(超ひも理論)ももとをただせば、「南部-後藤のひも仮説」にたどり着く。素粒子論を学ぶ者にとって南部理論は必須だ。

南部氏は一般向けの書物も書いている。講談社ブルーバックスシリーズの「クォーク」という書物だ。これはブルーバックスの中でもベストセラーで、広く一般市民に親しまれている。

今、僕の机上の本棚に、「BROKEN  SYMMETRY , Selected Paper of Y.Nambu」という本がある。南部博士の論文集である。僕が昔、KEK(高エネルギー加速器研究機構)での研究会に参加した時に、途中の東京の本屋さんで買った本だ。恥ずかしながら、深く読んだとは言えないのだが。論文集が出版されるのは一流物理学者の証だ。

やはり南部博士の話題で、一般市民の一番の興味はノーベル賞であるので、ノーベル賞の話題で終わることにする。2008年のノーベル物理学賞は南部博士・益川敏英博士・小林誠博士の日本人トリプル受賞であった。しかし三者三分の一ではなく、南部氏が二分の一、益川氏・小林氏がそれぞれ四分の一ずつである。賞金もそのように分配される。単純に言えば、南部氏のノーベル賞は、益川氏・小林氏の二倍の価値があるということである。

南部博士の冥福をお祈りいたします。